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三島由紀夫『豊饒の海』第2巻「奔馬」の舞台 大神神社を巡る旅(奈良県桜井市)

大神神社 鳥居

三島由紀夫が「一度は訪れるべき」と語った日本最古の神社

大神神社(おおみわじんじゃ)は、三島由紀夫の小説『豊穣の海』第2巻「奔馬」に登場する重要な舞台のひとつです。作中には次のような一節があります。

日本最古の神社であり、最古の信仰の形を伝えていると考えられ、古神道に思いを致す者が一度は必ず訪れなければならぬ社である。

神社好きなら一度は訪れてみたい神社なのです。

大神神社 鳥居
大神神社 扁額

奈良県桜井市にある大神神社(おおみわじんじゃ)は、三輪山(標高467m)そのものをご神体とする、全国でも珍しい神社です。社殿の奥には本殿がなく、神が宿るとされる山そのものを拝むという「神体山信仰」の形を今に伝えています。

三輪山には古くから杉や檜、赤松などが生い茂り、神聖な森として大切に守られています。今でも伐採は禁止されており、山全体がまさに“神の領域”といった雰囲気に包まれています。

古くから「大和国一の宮」として崇敬を集めてきた三輪明神は、地元の人たちからは親しみを込めて「三輪さん」と呼ばれています。最近では、強い浄化のエネルギーを感じるパワースポットとしても人気があり、心を整えたい人や癒やしを求める人にもおすすめの場所です。

『奔馬』の中では、主人公が訪れた情景がこんなふうに描かれています。

「玉砂利を敷き詰めた参道は、ゆるやかに迂回し、左右杉木立には枝に連ねた細縄に、正しい間隔を置いて白いしでしでがかすかすかに揺れている……」

大神神社 参道

静かな参道に玉砂利の音が響き、杉木立の間を抜けていく風が心地いいです。

三島が「奔馬」で描いたとおりの情景で、その表現力の確かさを感じさせられます。

さらに足を進めると次のような描写が出てきます。

神橋しんきょうを渡ると、屈折している 石段の上のはるか奥に、はじめて拝殿の白地に紫の紋様のとばりの端がちらとうかがわれた。

大神神社 

石段を上ると、奥の方に拝殿がちらりと見えてきます。
この瞬間、三島の描いた情景と目の前の景色がぴたりです。

運命の出会いが生まれた場所 ― 大神神社

大神神社 境内

境内で神前奉納の剣道試合が行われていました。主人公は来賓として見学します。

50人の剣士たちの中には、覚えのある苗字の大学生のいる。

その青年との出会いこそ、三島由紀夫『豊穣の海』全4巻で描かれる共通テーマ「輪廻転生」の物語を動かす、運命的な瞬間です。

大神神社 菊花紋
拝殿の千鳥破風と唐破風

三輪山の荒魂を祀る狭井神社

境内には荒魂あらみたままつ狭井さい神社があり(中略)ここに剣道試合を奉納する挙に出たが、狭井神社の境内はせまいので御本社の前庭で行われることになっていた。

大神神社は、穏やかで調和をもたらす「和魂(にぎみたま)」をお祀りしています。
一方、同じ境内にある狭井神社には、力強く勇ましい「荒魂(あらみたま)」が祀られています。

狭井神社

そのため、戦いを象徴する剣道の奉納試合は、本来なら荒魂を祀る狭井神社の境内で行われるのがふさわしいのです。

実際に訪れて見ました感じ、確かに狭いです。

『豊穣の海』を読まれた方は、ぜひ実際に大神神社と狭井神社を訪れてみてください。
三島の描写は、現実を写し取るリアリズムというよりも、その場の「空気」や「気配」までも感じさせる表現であることに気づくはずです。

『豊穣の海 奔馬』草案の地に佇むちいさな記念碑

大神神社を訪れてみたいと思うようになったのは、三島由紀夫の記念碑があると知ってからでした。
『豊穣の海 第二巻 奔馬』を読んだ者として、その草案の地といわれるこの場所には、やはり特別な思い入れがあります。

大神神社 三島由紀夫 記念碑

境内の一角に、ひざ丈ほどの小さな石碑が静かに佇んでいました。
三島がこの地を訪れ、あの壮大な物語を思索したのだと思うと、胸に静かな感動が広がります。

大神神社 三島由紀夫記念碑 清明

三島由紀夫の記念碑は、大神神社から狭井神社へ向かう参道沿いにあります。
記念碑を見てみたい方は、ぜひ狭井神社へ向かう途中で探してみてください。

日本最古の神社の神紋は今も色あせないデザインセンス

最後に今回の観光で気に入ったものを紹介します。

それは、大神神社と狭井神社のどちらにも描かれていた神紋(神社の家紋)です。

大神神社 三本杉
狭井神社拝殿の瓦
大神神社 丸に三本杉
出典:https://www.horigin-shop.com/hpgen/HPB/entries/170.html

神紋 三本杉

古くから三輪山の神杉は、神聖なものとして大切にされ、決して手を触れてはならない存在とされてきました。
神紋の「三本杉」は、その信仰を象徴する美しい意匠です。伝説によると、大物主大神が三本の杉を御神体として姿を現したといわれ、この紋が生まれたそうです。
今見てもかわいらしく、時代を超えて通じるセンスのよさを感じます。

大神神社 苔むした屋根
建物も自然も一体

思わず見上げる!日本で二番目に大きな鳥居

思わず見上げる!日本で二番目に大きな鳥居大神神社のシンボルといえば、この巨大な大鳥居。
高さはなんと32.2メートル!――ビルでいえば10階建てほどの高さです。

大神神社 大鳥居

実はこの鳥居、日本で二番目の大きさです。
一位は熊野本宮大社の大鳥居だそうですが、「二番目」とはいえ、その存在感は堂々たるもの。

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