旅・街歩き

なぜ人里離れた「天空の集落」に、国宝が2点も眠るのか ― 武蔵御岳神社の謎

武蔵御岳神社 都内の眺望
武蔵御岳神社拝殿前からの眺め 澄んでいると東京スカイツリーも

東京・青梅の奥深い山中、標高929メートル。
紅葉が鮮やかに燃え立つ武蔵御岳神社を訪ねてきました。

紅葉真っ盛り

偶然ではない。国宝が語る御岳山の特別な力

澄んだ空気を吸い込みながら参道を進んでいると、ひとつの疑問が浮かびます。
「なぜ、これほど険しい山上に国宝が2点もあるのか?」

途中休憩が必要な階段がつづく

国宝は、国が誇る文化財の中でも特に重要なものだけです。
日本には国宝がゼロの県すらありますし、わずか1点のみという地域もあります。
それにもかかわらず、この小さな山上集落には、2点もの国宝が静かに、しかし圧倒的な存在感で鎮座しているのです。美術館でも博物館でもない、山深い神社に、です。

武蔵御岳神社拝殿 徳川家康命によって江戸城の向きに変わった

これが偶然と片づけられるはずはありません。
ここには、この地が“特別な場所”であることを物語る、長い歴史の積み重ねがあります。

国宝「赤糸威大鎧」と畠山重忠 宝物殿に眠る鎌倉武士の祈り

宝物殿に収められている国宝「赤糸威大鎧(あかいとおどしおおよろい)」は、
鎌倉時代の名将・畠山重忠はたけやましげただが奉納したと伝わる由緒ある鎧です。
重忠にとって鎧は、戦場で命を守る“魂の器”のような存在でした。

国宝 武蔵御岳神社

その最も大切な鎧を神社に託したという事実は、この山への深い信頼と畏敬いけいの念を示しています。
紅葉の赤を思わせる鮮やかな色を眺めていると彼の祈りが今も静かに息づいているように感じられます。

武蔵御岳神社 宝物殿と畠山重忠像
北村西望による畠山重忠像

四条天皇が奉納した国宝・円文螺鈿鏡鞍とは?京から届けられた祈りの鞍

もう一つの国宝「円文螺鈿鏡鞍(えんもんらでんかがみくら)」は、
1234年(文暦元年)、四条天皇によって奉納されたものです。
遠い京都から、精緻な螺鈿細工らでんざいくくらが山奥の神社へ届けられたというだけで、
この神社の霊威が京の都にまで届いていたことがわかります。

天皇自らが奉納を選んだという事実は、「この山には国家を守る力がある」と信じられていた証し。
その祈りは、今なお御岳山に静かに宿っています。

猛々しい狛犬の後方が宝物館

宝物殿には国宝ほか3点の重要文化財も保存展示されています。

徳川家康も動かした御岳山の力 “江戸の守護”としての霊験

その“力”は、やがて徳川家康をも動かします。
家康は社殿を江戸城の方角へ向けるように改修させ、西方の守りとして御岳山の霊力を取り込もうとしたと伝わります。

まるで、この山が放つ気を江戸へ流し込むかのように。
御岳山は、家康にとっても重要な“精神的支柱”だったのかもしれません。

秋空の武蔵御岳神社からの眺め

心が整う山・御岳山ー歴史の偉人も魅了された“澄んだ空気”の理由

畠山重忠、四条天皇、徳川家康――。
歴史の大きな流れをつくった人々が、この山へ惹かれたのには、やはりそれ相応の理由があったのでしょう。

天球の集落を紅葉越しに臨む

私が訪れた日も、境内の空気は驚くほど澄んでいて、ただ立っているだけで心が整い、余計なものがすっと落ちていくような感覚がありました。
これが“霊山”が放つ独特の力なのだと、思わず納得してしまいます。

御岳山信仰の核心へ──徒歩参拝でしか味わえない霊力と出会う旅

そしてもし、あなたがその霊力に少しでもあやかりたいと感じるのなら、
ケーブルカーではなく、ぜひ参道を2時間かけて歩いて登ってみることをおすすめします。
道の両脇にそびえる巨大な杉並木は圧巻で、息を弾ませながら歩いていると、
「この先に本当に集落があるのだろうか?」と不思議な気持ちになるはずです。

参道には幹回り6.3メートルの大杉をはじめ700本以上の巨木が両脇に並ぶ

しかし、ふいに集落が姿を現し、荘厳な社殿で手を合わせた瞬間、
先人たちがなぜこの山を特別視し、深く崇拝してきたのか、その理由が自然と理解できるはずです。

願いを抱く人が御岳山に惹かれる理由──霊力が届けるサイン

もし今あなたが、
・人生の節目に立っている
・心に強い願いを抱えている
・理由もなく「山に行きたい」と感じている
そんな思いを抱いているのなら——
それは、この山からの静かな呼びかけなのかもしれません。

武蔵御岳神社本殿

歴史を動かした霊力に触れるとき未来への一歩が静かに動き出す

紅葉に包まれた天空の聖地は、今日も変わらず訪れる者を迎えています。
歴史を動かしてきたこの山の力に触れたとき、あなた自身の物語もまた、新しい段階へと歩み出すのではないでしょうか。


参拝後のご褒美ランチ

身体も心も少し疲れを感じます。地元の水で打たれた蕎麦は、香り高く、のど越しも爽やか。

蔵屋さんでいただいた蕎麦セット 

多摩・奥多摩ベストハイク

-旅・街歩き