風の福左右衛門の本業は小さな老人ホームの施設長です。
先日、食事を終えた男性(80代)が私の方へ近づいてきて「くろもじある?」と聞いてきました。
「く・ろ・も・じ、ですか?」と聞き返しすと。
そう「くろもじだよ」と当然のように返ってきました。
「君らの年代じゃ、知らんかな(ニヤニヤ)」
「くろもじ、知りませんけどそれって何ですか?」
「楊枝、ようじのことを花柳界とかではくろもじと言うんだよ」
早速事務所に戻ってインターネットを調べるとくろもじがヒットしました。
◆ 黒文字(くろもじ)
爪楊枝のことを指します。黒文字の樹皮の表面には黒い紋様があり、芳香があるため、皮付きの爪楊枝に用いられるようになりました。また材には去痰(きょたん)作用があり、せきやたんを抑える効能もあります。江戸時代には、小間物屋(化粧道具などを売る店)や楊枝専門店の店先で作られ、販売されていました。
と、ありました。
翌日、「くろもじ、わかりましたよ!」と昨日の方に笑いながら話しかると、
「わかったかー」とうれしそうに返事してくれました。
「花柳界では樹皮の黒い高級な木を使った楊枝が使われていたから、爪楊枝のことを黒文字と呼ぶんですね」と私。
一瞬、間があいて
「はっはっはー、違うよ」
と笑いながら言いました。
こちらは「なんで?」です。
だって、インターネットの辞書で検索した答えですから、違うといって笑われるはずがありません。
ちょっとムッとして言ってやりました。
「インターネットで調べたらそう書いてありましたよ」
「ちがうんだよ。あのね、芸者遊びしているときに爪楊枝なんて言ったらどうなると思う。妻用事となって遊びが一気にさめてしまうじゃろが。だから黒文字と言って奥さんのことを思い出さないように使うんだ」
一瞬、間があきました。
「ふ~ん、なるほどー、たしかに、そーうですね」
インターネットを検索してそこに答えがあればそれが全部と思ってしまう自分の浅はかさ、情けない。
どうみてもこの人が言ったことのほうが道理にあっていて、ごもっともという気がします。
恐ろしや遊び人の知識。
トンチと言うか、ユーモアと言うか、粋といったものはインターネットがいくら進化しても身につかないような気がします。
魅力的な人間になるには、インターネットじゃだめですな。遊ばないといけません。